FROM DM STAFF(2002年 プラクティス7・8月号に掲載)
医療法人成和会 粟井内科診療所
粟井 弘二(糖尿病専門医・指導医)  粟井 佐知夫(糖尿病専門医)

糖尿病の患者さんに療養への意欲を永らく維持して貰うことはなかなか難しい。 大抵の患者さんは「糖尿病が色々な合併症を起こす」という話題になると「また、その話か!」といった反応で、説得力が乏しくなっている。 そこで趣向を変えて、以下の話題を出してみると案外耳を傾けて下さる。

日常生活でストレスにさらされると、インスリン作用を抑制するホルモンや化学物質(インスリン拮抗物質)が血液中に出てくる。 また過食や運動不足により肥満が起こると、その脂肪組織からはTNF-αなどの抗インスリン物質が分泌される。 遺伝的にインスリンレセプター異常症があり、インスリンの細胞内への取り込みが悪い人もある。 そうなると膵臓はそれに打ち勝とうとして次第に多くのインスリンを分泌するようになる。

これらの要素の積み重なりで、体の中でインスリンが利きにくい状態が起こる。 これをインスリン抵抗性と呼んでいる。インスリン抵抗性があると、体内のインスリンは常時多い目に分泌される。 これが高インスリン血症である。

インスリン抵抗性と高インスリン血症のどちらが先であるかという点には議論があるが、欧米ではインスリン抵抗性が先行しているという意見が多い。

2型糖尿病では血糖値が上昇してくる数年前から、ほとんどの人でインスリンの分泌亢進がある。 過食や運動不足で血糖が上昇すると、膵臓はインスリンをより多く分泌して抑えようとする。 そのインスリンは余分の糖分を代謝の結果、中性脂肪に変えて体の脂肪組織を増やす。 増えた脂肪組織は抗インスリン物質だけでなく遊離脂肪酸を血液中に放出して血糖の利用低下を起こす。 膵臓は更に多くのインスリンを分泌する。

その結果、高インスリン血症はインスリン標的組織(筋肉、肝臓、脂肪組織など)のインスリンレセプター数を減らし、 かつレセプター機能そのものを減退させるから(チロジンキナーゼ活性低下)、更にインスリン抵抗性が増える。

一方、高インスリン血症は、動脈壁の組織を増殖させる、腎臓からの食塩排出を減少させて体内の塩分蓄積を促す、 交感神経を刺激して血管の収縮を起こすなどの作用により、動脈硬化や高血圧症を発症させる大きな誘因となる。

このようにして高インスリン血症とインスリン抵抗性が悪循環すると、膵臓は持続的なインスリンの過大分泌要求に応えられなくなって疲弊して来る。 その結果生ずるのがインスリン分泌不全と血糖の持続的上昇である。

血糖が必要以上に上昇してくれば、体の細胞や組織の毒として作用する。
血糖上昇が持続的になれば、その悪影響は尚更である。これを糖毒症という。

食物を保存する手段として「砂糖漬け」があるが、これは高濃度の砂糖の中では細菌(生物)が生存不可能なことを示している。 血糖濃度が高くなれば同じ結果をもたらす事は明白である。

糖毒症により、次のような病態が発展、増強してくる。
膵臓β細胞の機能低下→インスリン分泌低下→血糖上昇→糖毒症(悪循環)

体中の細胞や組織の機能低下→栄養素(糖質、蛋白質、脂肪その他)の吸収、
利用、分解の障害(代謝異常)→体組織や臓器の栄養障害、 機能低下→合併症(腎症、網膜症、血管障害、循環器疾患、神経障害、肝臓病など)
血液中の脂肪や尿酸などの上昇(高脂血症、痛風など)

死の四重奏


Defronzoが1980年に、インスリン抵抗性、肥満、高インスリン血症、脂質代謝異常、高血圧を合併する「インスリン抵抗性症候群」の概念を発表した。 その後、同様の概念の疾患群が、内蔵脂肪症候群(松沢 1987年)、シンドロームX(Reaven 1988年)と発表されたが、 Kaplan 1989年の名付けた「死の四重奏、Deadly quartet」という言葉は糖尿病の患者さんにとって十分に説得力のある言葉である。 彼の四重奏は「上半身肥満、耐糖能異常、高中性脂肪血症、高血圧」を含むが、ここに紹介した何れの概念も本質的には「インスリン抵抗性、高インスリン血症、糖毒症ならびに、その結果としてもたらされる病態」を表現したものである。

患者さんへの動機付けには「死の四重奏になったら困るから今の内に十分食養生をして下さいよ。 運動もして体脂肪を減らさないと長生きできませんよ!」という所へ話を誘導する訳である。 上記のような話の概略を、患者さんの理解度を勘案しながら適当に省略したり、平易な言葉に変えたりして説明すると、今までとは違った反応が期待できるように思う。

食後高血糖と続発性インスリン分泌に対する低GI食品の奨め


食後の高血糖は高インスリン血症を誘発するから、それを抑えるための食事療法の一つとしてGlycemic index(GI)(一般的には「血糖化指数」と訳されているが、 糖尿病用語集では「血糖上昇係数、血糖指数」と記載)を紹介したい。

同じ量の糖質を含む食品でも、食後の血糖上昇率は食品によって違う。食後の血糖上昇が緩やかなら、インスリン分泌が少なくて済む。 糖質性食品の摂取に際しては先ず食品交換表に習熟して適量の糖質をとる努力が必要であるが、次の段階としては糖質の量だけでなく、その質をも併せて考慮する必要がある。

同じ糖質量のブドウ糖が、食後2時間の間に吸収されて血液中に出てくる血糖量を100とし、それに対して他の食品がどのくらい血糖を上げるかという比率を「血糖化指数」と言う。 例えば血糖化指数が50の食品は同じ糖質量のブドウ糖を摂取した時に比べて、食後2時間の血糖が合計で半分しか上がらない。そして残り半分の血糖が、その後も少しずつ腸から吸収されて来るため次の食事までの血糖値を低すぎないように維持する効果もある。
従って糖質性食品をとる時は、血糖化指数の低い食品の比率を増やすように心掛ければ食後高血糖の低減高インスリン血症の改善を期待できる。

血糖化指数の一般的傾向(括弧内数値はGIの目安)


柔らかくて吸収の早い食品は指数が高く、半固形・固形のものは低い。
マッシュドポテト(90)よりポテトそのもの(70)
精白パン(95)よりスパゲティー、マカロニーなど(40~50)精製されたものより精製度の低い食品が低い。
精白パンより褐色がかったパン(製粉歩留まりの高い粉使用、50~65)
精白米(75~90)より胚芽米(70)、玄米(50~55)
豆類(20~50)、乳製品(30~39)、植物繊維の多い食品は低い。
糖質性食品を蛋白質や油脂・多脂性食品と一緒に食べると、指数が低くなる。

関連文献


林 進ほか、これからの栄養食事指導、FROM DM STAFFS、
プラクティス Vol.18 No.1 2001.1.2.
インターネット・ホームページ、検索キーワード「血糖化指数」
または「glycemic index」で、GIデータが色々と発表されている。



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